2005-12-18
バーティミアス03 プトレマイオスの門
理論社|ハードカバー
著者|ジョナサン・ストラウド
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未読の方でも詳細は伏せてありますので、宜しければお読み下さいね。
バーティミアス3部作の完結編です。
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マンドレイクは17歳、情報大臣として一般人にも人気がある魔術師となっ
ていた。
しかし、アメリカとの戦争で国内は混乱し、他国のスパイがはびこり、魔術
師支配の世界に不満が鬱積。実はまだ国家保安庁の仕事も続けている。
マンドレイクに召喚されっぱなしのバーティミアスは、異世界に戻れない為
に衰弱し続け、限界寸前だった。
キティは偽名でロンドンに残り、ひょんなきっかけから研究だけが生き
甲斐の老魔術師バトンと出会い、バイトで助手となる。
目的は……
バーティミアスが好んで変身する少年にまつわる思い出、命の恩人のキテ
ィを忘れられないマンドレイク…
3人は陰謀の首謀者と真の目的を知り、それぞれ驚くべき決断を下す──
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とうとう最終巻です。
オビは見ないようにして外し、見返しもキャラ紹介も飛ばして本文へ。
…もし最悪の結末だったらどうしよう。勿体ないからゆっくり読もう…
なんて私には出来ません。一気読みしました(笑)
前2作からの縦糸がはっきりと見え、読了後に眺めると、整然とした模様の
織物が完成していた… そんなカンジでした。
作者の方が目標としていた某ラ○ラ三部作なんか、比較にならない面白さで
大満足です。
以下は内容に触れていますので、読後にお読み下さいね。
私はバーティミアスファンなので、ラストで消えるのではないか、二度と
現れないのでは…と、最悪のラストを想定してショックに備えたのですが、
杞憂に終わって本当に安堵しました。
何とも思わなかったあの姿が、プトレマイオスという、唯一親友となった
少年だったなんて…
前作で、キティに対してあんなに好意的だったのは道理で、それが伏線と
なり、キティはバーティミアスを呼び出して協力を依頼するものの、結局
信頼関係を証明出来ない。この失敗故に、結果を知らずに門をくぐる事に
なる。このエピソードがとても良かったです。
両親の愛情も同世代の友情も知らず、表向きは有能で強い魔術師でありな
がら、孤独で内面は脆い。頼れる者は自分自身だけ。認めてもらうには、
虚勢を張り、実績で証明するしかない…
ナサニエル(途中で呼び方が変わる)は本当は可哀想で、あまりにも報われ
ないキャラでした。
本心を見透かされた挙げ句、ファーラー(17歳に何を期待してたんだか)に
弱さをなじられ、かつての恩人には敵視される…
平常時なら「まあ、立派になられて」なんて、お世辞のひとつも言ってもら
えたでしょう。ナサニエル他、今まで魔術師を育てた自分だって、他の一般
人から見れば荷担側なのに、私は悪くない、そうしないと自分も…ですか?
(解釈が違うかも(苦笑))
本名や過去を知られていてもバーティミアスを解放しなかったのは、唯一
心が許せる存在だったからでしょう。保護者で、頼もしい?パートナーで、
最後は命を預けられる親友でした。
…ただ、気づくのが遅すぎました。
私は1巻から好きになれませんでしたが、本来ならナサニエルが悟るべき
共存を、キティが…という展開になった時点で、そうなるんだろうな…と、
薄々感じていました。
頼る者も失うものもない。希望はバーティミアスとの再会・交渉のキティ。
プトレマイオスの門をくぐった辺りから、本当の主人公はキティだったのか
もしれません。
前回書いたジン以上にはなれない・閉塞感を持つバーティミアスの願いが、
実は共存(対等の立場)だった…
プトレマイオス以来、キティまで誰一人試そうとしなかったのには驚きまし
た。魔術師って、自分じゃ何もしないズルい存在、悪人ばかり…とは思えま
せんが、戦友のフェイキアールと明暗を分ける結末は、バーティミアスが
単に強かというのではなく、対等の立場を築けた希有なジンだったからなん
ですね。(切り札を使わなかったエピソードでわかります)
キャラ設定が緻密で、設定と共に作りこんであるだけでなく、第1巻では
こういうキャラだと思わせておいて、第2巻では弱さも持つ意外性を見せ、
そして最終巻では、苦くて悲しいトラウマと願い(本心)を描くという、
斬新な表現に感心させられました。
希望を失ったキティは、次の目的を探す旅に出る…
これを最後にした方がストーリーとしては自然ですが、あえてナサニエルと
バーティミアスで…それも永遠の別れで終わらせたのは、作者の思い入れが
強かったからでしょう。
バーティミアスは、2度もかけがえのない贈り物を貰いました。
それは(多分自覚はないけど)「そうさせる魅力」を持っていたからです。
ナサニエルの遺言は、結局キティに伝えられませんでした。
これから共存出来る社会を築けるのか? 又敵対するのか?
キティのように門をくぐって異世界に行き、そのままだと結局どうなって
しまうのか?(キティがそうする可能性は?)
目立たなかったキャラ(バトンとか)だって、活躍しそうな含みを持たせて
います。他国が混乱に乗じてつけ込んで帝国大ピンチ(バーティミアスは
今度は敵にまわるとか)と、これからが面白そうなのに…
作者は、素直だった頃に戻れたナサニエルに「やり直せる」機会を与えま
せんでした。(ある意味因果応報)メインキャラなのに、キティに主役を
譲って退く。こういう設定は珍しいです。
ナサニエルがバーティミアスの願いに気づき、キティと協力して真の敵を…
普通ならこうなりそうだし、する事も出来たでしょう。
助かりそうにないという描写で救ってましたが、ファンの人はショックでし
ょうね…
かなりシビアで現実的で、「魔法で良くならない世界」「後悔先に立たず」
その上、メインキャラが誰も幸せになれないという異色のFTでしたが、
ラストもピリッと締めくくられて、大好きな作品のひとつになりました。
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原書とどう違うのか気になり、3巻だけ購入しました。
日本語版の方が大きい+厚い+重いです。本文が終わるのは634P・515P。
価格は1900円・1980円。
ほぼ倍の某社とは大違い。理論社って、何て良心的なんでしょう(笑)
『妖霊独白』(前書き兼これまでの粗筋)は日本語版だけです。
本文下の注釈は、日本語版の方が遥かに見やすいです。
原書本文にイラスト・レタはありません。
紙質はペーパーバックのようです。
読み比べてみると、キャラの性格がハッキリとわかる文体で、リズムが
そのまま伝わってきます。
意味を変えずに、いかに面白く表現するか。てっきり『ハリポタ』みたいに、
原文の直訳風かと思ったら、あまりにもシンプルなので驚きました。
(読みやすいけど、自力だと英語の宿題のような味気ない文章に(苦笑))
名訳で読めた点も幸せでした。
本当に映画化されるのでしょうか……(他に全く情報がないのが不安)
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